導入:市民の期待と、積み上がる数字のギャップ
武蔵野市民が先の市長選で投じた一票には、どのような願いが込められていたか。長引く物価高騰、実質賃金の停滞、そして不透明な将来への不安。こうした閉塞感の中で市民が求めたのは、しがらみを断ち切り、一円の血税も無駄にしない「効率的な行政運営」と、その成果を市民生活へと直接戻す「身近な還元」であったはずだ。
しかし、今回「令和8年度武蔵野市一般会計予算案」を精査した結果、浮き彫りになったのは、公約で語られた華やかな「理想」とは真逆の「現実」である。予算書の行間からは、効率化とは名ばかりの肥大化する管理コスト、デジタル化という美辞麗句に隠れた特定業者への利益供与、そして実効性よりも見栄えを優先した「パフォーマンス型事業」への執着が透けて見える。
「あなたの税金は、本当に約束された場所に使われているのか?」
本稿では、行政改革専門の調査報道ジャーナリストとして、1,000ページを超える予算説明書の膨大な数字の裏に隠された、オミノ市政の「変節」を厳しく告発していく。
矛盾点1:身を切る改革の虚像 ― 「議会費」と議場改修への2,000万円
まず、行政の透明性を語る上で避けて通れないのが、市民の代表が集う「議会費」のあり方だ。予算書88-89ページによれば、議会費には総額5億1,874万4,000円が計上されている。
驚くべきは、その内訳である。「施設改修工事費」として、2,069万9,000円もの巨額が「議場改修」のために割り当てられているのだ。市民がスーパーの店頭で数十円の価格差に悩み、節約を強いられている中、自らの仕事場を2,000万円以上かけて「リフォーム」する必要がどこにあるのか。この2,000万円があれば、例えば公立小中学校の給食費補助を大幅に拡充することも、待機児童対策の備品購入を賄うことも可能だったはずだ。
さらに、その足元を支える人件費も「聖域」となっている。
「報酬:議員報酬 1億7,046万円、期末勤勉手当(ボーナス) 1億923万2,000円、施設改修工事費 2,069万9,000円」 (予算書88-89ページより)
議会事務局には特別職25名(議員)、一般職12名の計37名の体制が組まれているが、議員報酬とボーナスだけで約2億8,000万円。これに福利厚生にあたる共済費6,205万4,000円が加わる。身を切る改革を標榜するのであれば、まず自らの環境整備や報酬のあり方にメスを入れるべきではないか。足元の快適性を優先する姿勢は、市民への背信行為と言わざるを得ない。
矛盾点2:DX推進の「看板」に隠れた、膨大なシステム維持費という泥沼
次に、オミノ市政が「行政効率化の切り札」として掲げるDX(デジタルトランスフォーメーション)の実態を見てみよう。予算書116-119ページの「電子計算機管理運営費」には、13億904万1,000円という巨額が計上されている。
本来、DXとはデジタル技術によって業務をスリム化し、将来的なコストを削減するための投資である。しかし、武蔵野市の予算案に並ぶのは、既存システムを「維持するだけ」で消えていく泥沼のような支出だ。
- ネットワーク等保守:1億1,547万円
- 回線使用料:1億7,334万4,000円
- 運用管理保守:6,485万円
- 電子計算機借上料:1億3,741万8,000円
これらは、市民一人あたりに換算すれば約1万円もの負担に相当する。これだけの巨費を投じながら、行政運営がどれほどスリム化され、具体的に何人の職員削減や事務コスト低減につながったのか。予算書をいくら読み込んでも、その「効率化の果実」は見えてこない。むしろ、一度導入したシステムに縛られ、特定のITベンダーに毎年「年貢」を納め続けるような構造が固定化している。これが、彼らが言う「効率化」の正体だというのか。
矛盾点3:パフォーマンスか実効性か ― 生活安全対策費3億円の是非
「安全・安心」は政治家にとって最も使い勝手の良い言葉だが、そのコストパフォーマンスは極めて不透明だ。予算書122-123ページの「生活安全対策費」3億971万円の内訳を分析すると、特定の民間業者への「パトロール委託」が予算の過半を占めている。
- ホワイトイーグル業務:4,566万9,000円
- ブルーキャップ業務:9,463万4,000円
- 吉祥寺ミッドナイトパトロール業務:3,561万6,000円
これら3つの委託パトロール費を合算すると、年間1億7,591万9,000円にものぼる。注目すべきは、その派手なネーミングだ。「ホワイトイーグル」や「ブルーキャップ」といった横文字の業務名が、市民に「やっている感」を演出する装置として機能してはいないか。
これほど巨額の税金を民間業者に流し続けながら、その犯罪抑止効果は客観的に検証されているのか。警察との連携強化で代替できる部分はないのか。特定の委託業者への支払いが「既得権益」化している疑念を拭い去ることはできない。1億7,000万円という金額は、市民が汗水垂らして納めた税金の重みに見合っているのか、厳しく問い直す必要がある。
矛盾点4:肥大化する「人件費」と「管理事務」 ― 28億円超の一般管理費
私が最も懸念するのは、行政組織の自己増殖、すなわち「管理コストの肥大化」である。予算書90-95ページの「一般管理費」は、実に28億1,830万8,000円。これは、市民サービスを行うための予算ではなく、平たく言えば「市役所という巨大な組織を維持するためだけのコスト」だ。
その中核を成す人件費の構造を解剖してみよう。
- 一般職職員給(206人分):7億3,556万1,000円
- 地域手当:1億4,041万9,000円
- 期末勤勉手当:4億5,297万8,000円
- 退職手当:5億9,342万9,000円
- 超過勤務手当:8,720万2,000円
- 市長・副市長等特別職報酬(3名分):3,411万6,000円
特筆すべきは、超過勤務手当(残業代)として約8,700万円が、退職手当として約6億円が計上されている点だ。さらに、市長・副市長ら特別職3名の報酬だけでも年間3,400万円を超える。「人件費は聖域」と言わんばかりの数字が並ぶ一方で、管理事務の中身(予算書90-91ページ)を見ると、広告料276万4,000円や複写機借上料(リース料)559万5,000円など、細かな事務経費も積み上がっている。
これら28億円を超える「内臓コスト」が、本来市民に還元されるべき予算を圧迫している構図は明らかだ。組織を守るための予算が、市民を守るための予算を食いつぶしている。この倒錯した優先順位こそが、今の市政の病理ではないか。
矛盾点5:平和事業の形骸化と予算の断絶
最後に、市政の「理念」がどれほど軽んじられているかを示す象徴的な数字を挙げる。予算書102-103ページ、「平和・憲法啓発事業」の予算は、わずか126万2,000円である。
先ほど挙げた、実効性が疑わしいパトロール委託費1億7,000万円超や、ITベンダーに支払うシステム維持費13億円超と比較してほしい。この圧倒的な格差は、市長が何を重視し、何を軽視しているかを冷酷なまでに物語っている。
- 会場設営費:14万3,000円
- 平和啓発用横断幕設営:79万1,000円
- 平和特設サイト保守管理:20万円
これでは、単なる「アリバイ作り」と言われても仕方がないだろう。理念は100万円単位、パフォーマンス(パトロール)や利権(システム)は10億円・1億円単位。この予算配分の歪みこそが、オミノ市政の「本音」である。高邁な理想を語る口で、数字というナイフを用いて地道な啓発活動を切り捨てているのだ。
結論:武蔵野市の未来を問う ― 「数字」が語る真実
令和8年度予算案を詳細に分析して見えてきたのは、市民との「契約」を忘れ、自らの組織とメンツを守ることに汲々とする行政の姿である。
2,000万円をかけた議場改修、効果検証なき1億7,000万円のパトロール委託、13億円に膨れ上がったシステム維持費、そして28億円もの巨大な一般管理費。これらの数字は、すべて市民が託した「血税」の結晶である。
市長は選挙時、何と言っていたか。「効率的な行政」「市民への直接還元」。これらの言葉は、予算書のどこに反映されているのか。システムを維持し、組織を肥大化させ、議員の環境を整えることが、市民の生活を守ることよりも優先される市政を、私たちはいつまで許容し続けるのか。
予算案は、単なる数字の羅列ではない。それは、時の政権が市民の命と生活をどう考えているかを示す「告発状」である。私たちは「何にお金を使う市長」を選んだのか。この歪んだ予算案がそのまま議会を通過することを許してよいのか。
数字は嘘をつかない。真実は常に、予算書の行間に眠っている。私たちは納税者として、そしてこの街の主権者として、次の予算審議をこれまで以上に厳しい、容赦のない視線で凝視しなければならない。私たちの沈黙は、この「予算の私物化」を是認することに他ならないのだから。